ADは「雑用係」なのか? テレビ業界の仕事と、その先に広がるキャリア
ADに「雑用係」という印象がつきまとう本当の理由
この記事では、ADがなぜ映像業界の入口といえるのか、そこで身につく経験がディレクター、記者、プロデューサー、YouTubeやWeb動画など、その先のキャリアにどうつながるのかを紹介します。
面接をしていると、 こういうセリフをよく聞きます。
「ADとして雑用をこなし」
「裏方、バックヤードとして」
そういうことばを聞くたびに、
「あ、ちょっとちがうんですよ」
と、ご説明することにしています。
たしかに、
インターネットで「AD」と検索すると、
ロケ弁の手配、コピー、荷物運び、出演者への連絡、資料探しなど、
その業務は、華やかなテレビの世界とは少し離れた裏方仕事が中心です。
それだけを見ると、
「つまりは雑用係」
その認識が、一番最初に来るのはまあ、妥当。
そこから派生して、
「雑用しかやらないのに、ディレクターになど、なれないのではないか」
「せっかくテレビ業界に入るのに、どうしてそんな仕事から始めなければならないのか?」
「結局雑用だけやって、使い捨てられているのではないか」
という疑念がわいてくるのも、納得。
一般的に、そういう認識を前提としているところがあるので、
「それでもやりたい」
と、AD職に応募してくるかたの口から、
「裏方として懸命に雑用をこなし…」
という自己PRが出てきてしまうことも、わかると言えばわかる。
業務の内情が見えにくいこともあり、
面接の自己PRでは、懸命さ、我慢強さをアピールすることばを選びがちなのでしょう、
と、かんがえています。
しかし、これ、
ADという仕事を理解するうえで、非常にもったいない見方です。
ADは「雑用をするための職種」ではありません。
結論から言うと、
ADというのは、番組制作の全体を知る、現場のもっとも広い範囲に関わる仕事です。
そして、この経験は、
ディレクターや記者、プロデューサーだけでなく、
制作会社、フリーランス、さらにはYouTubeやWeb動画など、さまざまな映像メディアの仕事につながっていきます。
ADとはどのような仕事なのか
ADはAssistant Director、つまりディレクターを補佐する仕事です。
ただし、「ディレクターのお手伝い」と考えるだけでは、実際の仕事内容はなかなか見えてきません。
たとえばニュース番組なら、
・取材するテーマについて調べる。
・取材先へ連絡する。
・街頭インタビューを行う。
・撮影場所や撮影許可を確認する。
・必要な映像や資料を集める。
・収録や生放送に向けて出演者やスタッフの動きを確認する。
・撮影した映像を整理する。
・編集に立ち会う。
・テロップを準備する。
・生放送が予定どおり進むように現場を支える。
こうした一連の業務に関わります。
ADとは、番組が作られていく過程を、企画からオンエアまで実際の現場で学ぶ職種。
Bambina de Oroのスタッフも、テレビ局で、実際に取材、編集、生放送などの現場を体感しながら、仕事を覚えていっています。
一つひとつを見ると地味。
しかし重要なのは、番組は、その一つでも欠ければ完成させることができません。
ADに「雑用係」という印象がつきまとう本当の理由
もしもADがほんとうに雑用係でしかないのなら、
みなさんがご覧になっている番組は、「雑用の集積」ということになってしまいます。
「雑用の集積」が、かつては社会現象を作り、映画にスピンオフされ、
企業は、「雑用の集積」に、高いスポンサー料を払って、
雑用で70年、テレビ産業をやってきた、ということになってしまう。
実際には、
ADがいないと、テレビ番組は成り立たない、放送もできません。
それでもADは「雑用係」だとおもわれている理由。
そのひとつは、
テレビ番組には非常に多くの専門職が関わっているからです。
テレビ局の仕事は、プロデューサーとディレクターだけで成り立っているわけではありません。
報道、制作、技術、美術、営業、編成、事業、法務、経理、権利処理など、それぞれ異なる専門性を持つ人たちが一つの番組に関わっています。
さらに実際の制作現場では、テレビ局員だけでなく、番組制作会社、技術会社、派遣会社、編集会社などのスタッフが同じチームで働いています。
日本テレビも、現在の番組制作には多くの制作会社との協力が必要不可欠であることを、制作委託に関する指針で明記しています。
つまり、テレビ番組というのは、かなり大きな共同作業なのです。
その仕組みを何も知らない人が、入社初日から、
「今日からあなたがディレクターです。30人のスタッフを動かしてください」
と言われても困るでしょう。
これはテレビ業界だけの話ではありません。
製造業でも金融でもITでも、新卒者や未経験者がいきなり部長やプロジェクト責任者になることは通常ありません。
まずは比較的小さな仕事や補助業務を担当し、
誰が何をしているのか。
仕事はどの順番で進むのか。
どこでミスが起きるのか。
誰に確認すればよいのか。
どれくらい時間と費用がかかるのか。
そうした仕事の基本構造を覚えていきます。
テレビ業界では、その入口に位置する代表的な職種がADなのです。
門前の小僧、習わぬ経を読む
ADは、番組制作や放送にまつわるさまざな業務を行いますので、
自然、知識は増えてくる。
まわりで動いているたくさんの専門職の人々とかかわることで、
業界全体、映像制作全般を、あまねく見ることができます。
プロデューサーから学ぶ
プロデューサーは、番組全体を事業として成立させる側の仕事です。
企画、予算、出演者、スタッフ編成、放送局内外との調整、契約、スケジュールなど、番組全体を見ながら判断します。
「面白い企画を考えられる人」がプロデューサーだと思われがちですが、それだけではありません。
面白い企画でも、予算が足りなければ作れません。
出演者のスケジュールが合わなければ撮影できません。
権利処理ができなければ放送できない場合もあります。
スポンサーや営業部門との調整が必要な番組もあります。
制作費をどこに配分し、どこに人を配置し、どのような体制なら番組を成立させられるのか。
クリエイティブとビジネスの両方を理解する必要がある仕事です。
いろいろなスタッフの間に立ち、適宜、調整を行うプロデューサーから、
直近で指示を受け、
ADは、「プロデュース」という世界を学んでいきます。
ディレクターから学ぶ
ディレクターは、番組を実際の映像として形にする仕事です。
台本や構成を考え、どのように撮影するかを決め、出演者へ指示を出し、ロケや収録を進行し、編集を行います。
もちろん、ディレクター自身がカメラ、照明、音声、編集など、すべての専門技術をプロと同じ水準で扱う必要はありません。
しかし、
この場面ならどんな画が必要なのか。
どのような音声が必要なのか。
どれくらい撮影時間が必要なのか。
編集で何ができて、何ができないのか。
そうした技術スタッフの仕事を理解していなければ、適切な指示は出せません。
ディレクターのかたわらで、その編集技術を見つめながら、
技術スタッフとの打ち合わせをそばで聴きながら、
ADは、「クリエイション」、「ディレクション」を学んでいきます。
技術スタッフから学ぶ
カメラ、音声、照明、スイッチング、ミキシング、編集などの
「技術さん」たちは、
番組を映像として成立させる専門家です。
それぞれが、高度な専門技術。
学校では学べない、実体験からの知恵にあふれている。
一つの映像として自然に流れていくそれの裏側で、
多くの専門職が同時に動いていることを、ADは、学びます。
技術さんが教えてくれた「絡まない機材ケーブルの巻きかた」で、
家じゅうのコンセントのケーブルを巻き、ああ、お部屋すっきり、
なんてこともあり、
「技術が秩序をつくる」というリスペクトもうまれます。
営業や事業部門から学ぶ
民放テレビ局の重要な収益源の一つが広告です。
営業部門は広告主や広告代理店と仕事をし、CM枠、番組スポンサー、タイアップ企画などを扱います。
番組を「作る人」と「売る人」は別々に見えますが、実際には切り離すことができません。
どれだけ面白い番組でも、継続して制作するためには事業として成り立たせる必要があります。
プロデューサーになれば、こうした営業や事業部門との調整も重要になってきます。
番組によっては、会議に営業担当者が同席することもあります。
事業局の人が来ることもある。
彼らは、派遣スタッフから見ると、「局の人」ですが、
番組プロデューサーが「局の人」と行うやりとりを間近で見ることができるのは、
スタッフだけ。
番組制作をしながら、テレビ局という組織についても学ぶことができるのです。
事務、法務、権利関係の仕事もある
番組制作では契約、経理、人事、著作権、映像使用許諾、出演契約など、表からは見えにくい仕事も大量に発生します。
YouTubeに動画を一本投稿する場合でも、他人の映像や音楽を自由に使えるわけではありません。
テレビ番組となれば、扱う素材や関係者の数はさらに増えます。
AD時代に、
「なぜこの映像は使えないのか」
「なぜ撮影許可が必要なのか」
「なぜこの確認を放送前にしなければならないのか」
といったことを経験するのも、将来ディレクターになるための勉強です。
テレビ番組を作っているのは、テレビ局員だけではない
ここは、テレビ業界を目指す人にぜひ知っておいてほしいところです。
「テレビ番組を作るならテレビ局に就職しなければならない」
と思っている方が少なくありません。
実際には違います。
テレビ局だけでなく、
番組制作会社。
人材会社から派遣される制作スタッフ。
技術会社。
編集会社。
美術会社。
そして経験を積んだフリーランスのディレクターやスタッフ。
さまざまな所属の人が一つの番組を作っています。
外からテレビを見ているだけでは、画面の向こうにいるスタッフがテレビ局員なのか、制作会社社員なのか、派遣スタッフなのか、フリーランスなのかはほとんど分かりません。
大切なのは会社名だけではなく、
「どの現場で、どんな仕事を経験したか」です。
Bambina de Oroでも、未経験からADとして現場に入り、経験を積みながらディレクターや記者などを目指すキャリアを案内しています。現在のキャリア例では、1年目をAD、2~3年目をチーフAD、4~5年目以降をディレクター、記者、プロデューサー、番組デスク、APなどとしています。
もちろん、昇格時期は本人の適性や習熟度によって変わります。
過去には2年目のADの企画が採用され、番組化したこともあります。
余談ですが、
日本テレビで放送中のニュース番組の、
お天気コーナーに登場する「〇〇ジロー」が、
とあるひとりのADの発案からうまれたことは、有名な伝説です。
フリーディレクターという働き方もある
ディレクターとして経験を積んだあと、一つの会社だけに所属せず、
フリーランスとして複数の番組や制作会社と仕事をする人もいます。
得意分野を持ち、
「報道ならこの人」
「ドキュメンタリーならこの人」
「バラエティならこの人」
という評価を得られるようになると、会社名ではなく個人の実績で仕事を受けられるようになります。
一方、フリーランスになれば、仕事を取ること、契約条件を確認すること、収入を管理することも自分の仕事になります。
会社員からフリーランスへ移るということは、
自由になるだけではありません。
一人の小さな事業者になるということでもあります。
だからこそ、
まず組織の中で制作現場を経験し、
人脈や専門性を作ってから独立するという順番に、意味があるのです。
テレビからYouTubeへ行くというキャリアもある
現在、ADやディレクターの経験を生かせる場所は
テレビだけではありません。
YouTubeをはじめとするオンライン動画、企業のオウンドメディア、Web番組、SNS動画、配信コンテンツなど、映像を必要とする場所は広がっています。
テレビ制作経験者が持っている、
企画力。
ロケや撮影の段取り。
出演者との調整。
スケジュール管理。
撮影と編集の基礎知識。
著作権やコンプライアンスへの意識。
現場で予定外のことが起きたときの対応力。
こうした能力は、YouTubeなどの動画制作でも活用できます。
つまり、ADとしてテレビ業界に入ることは、「一生テレビだけで働く」と決めることではありません。
映像制作という職能を身につける入口の一つなのです。
テレビとYouTubeでは、評価される能力が少し違う
ただし、テレビ制作の経験があれば、そのままYouTubeでも成功できるわけではありません。
テレビとYouTubeでは、コンテンツの評価方法が違います。
テレビでは、放送時間、番組全体の構成、放送基準、視聴率などを意識します。
YouTubeではそれに加えて、
どれくらいクリックされたか。
何分まで見てもらえたか。
どの場面で視聴者が離れたか。
どこから視聴者が流入したか。
どんなタイトルやサムネイルが反応されたか。
といったデータを、動画単位で細かく確認できます。
テレビで身につけた「人に見てもらうための演出力」に、「数字を見ながら改善する力」を加える。
これが、テレビからオンライン動画へキャリアを広げるときの重要なポイントになります。
テレビ経験者がYouTube業界へ進む場合のキャリアイメージ
一つの例として、次のようなステップが考えられます。
第1段階 現場で即戦力になる
制作進行、撮影アシスタント、編集アシスタント、APなどから始めます。
テレビで経験したロケ、出演者対応、撮影進行、素材管理などを生かしながら、オンライン動画特有の制作スピードを覚えます。
ここでは「テレビ式をそのまま持ち込む」のではなく、新しい制作方法を覚える柔軟性が大切です。
第2段階 データを読めるディレクターになる
ディレクターやチャンネルプロデューサーとして、動画そのものだけでなく視聴データを見るようになります。
クリック率、視聴維持率、平均再生時間、流入元などを確認し、
「面白かったと思う」
だけではなく、
「なぜこの動画が見られたのか」
「なぜここで視聴者が離れたのか」
を説明できるようになることが重要です。
テレビで学んだ構成力と、オンライン動画のデータ分析を組み合わせることができれば、大きな強みになります。
第3段階 メディアそのものを設計する
さらに経験を積めば、一本の動画ではなく、
「このチャンネルを誰に見てもらうのか」
「どんなブランドを作るのか」
「どうやって収益化するのか」
「スポンサーとどんな企画を作るのか」
といったメディア全体の設計を担当する仕事へ進むこともできます。
チャンネルプロデューサー、メディア責任者、事業責任者、あるいは独立・起業などがその先の選択肢になります。
テレビとYouTubeはまったく別の世界ではありません。
媒体は違っても、
人に何を伝えるかを考え、
人とお金を集め、
スタッフを動かし、
作品を完成させ、
視聴者に届ける。
という仕事の基本構造には、多くの共通点があります。
ADはゴールではない
ADという仕事について考えるとき、いちばん大切なのはここです。
ADになること自体を最終目的にする必要はありません。
ADは、映像制作の世界に入る入口です。
ディレクターになる。
記者になる。
プロデューサーになる。
編集や技術の専門性を深める。
制作会社へ転職する。
テレビ局の中途採用を目指す。
フリーディレクターになる。
YouTubeやWebメディアへ移る。
自分で制作会社やメディアを作る。
経験を積んだ先には、いろいろな道があります。
最初から自分の最終的な職種が分かっている人ばかりではありません。
むしろADとしてさまざまな仕事を経験することで、
「自分は取材が好きなのか」
「編集が好きなのか」
「人を動かす仕事が向いているのか」
「企画を考える方が好きなのか」
が見えてくることもあります。
「雑用」から見えるものがある
コピーを取る。
資料を探す。
取材先へ電話する。
撮影場所を確認する。
映像素材を整理する。
スケジュールを確認する。
一つだけ切り取れば、たしかに地味な仕事です。
でも、それを何のためにやっているのかが分かるようになると、仕事の見え方は変わります。
資料を探すのは、企画を作るため。
取材先へ電話するのは、番組に必要な情報を集めるため。
撮影場所を確認するのは、撮影を成立させるため。
素材を整理するのは、編集を成立させるため。
スケジュールを確認するのは、大勢のスタッフを同時に動かすため。
その積み重ねの先に、一本の番組があります。
ADだから雑用をしているのではありません。
映像制作の仕事を覚えるために、まず番組を構成している小さな仕事を一つずつ経験しているのです。
Bambina de Oroでは、未経験からテレビ制作の現場に入り、ADとして実務を経験しながら、ディレクターや記者など次のキャリアを目指す人を支援しています。
テレビの世界に興味はある。
でも、自分に何ができるのかはまだ分からない。
そんな方にとっても、ADは映像業界の全体を知ることのできる入口の一つです。
最初の仕事だけを見て、その先にあるキャリアまで諦めてしまうのは、
もったいない。
ADはゴールじゃない。 映像業界の「最強の入口」です。
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